まこちゃんの歯医者さん通い
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「まこちゃんの歯医者さん通い」

 今朝から小学1年生のまこちゃんは、ひとりで悩んでいました。
それは、右下の奥歯がキーンキーン痛みはじめたからです。

 アイスを食べてキーン、麦茶を飲んでもキーン。
キーンキーン痛むたびに、まこちゃんが、「あっ」と小さく声を
あげて右目をつぶり右のホッペをさわったので、お母さんが
「まこ、もしかして虫歯じゃないの、痛むの」
と聞きました。

 今ここで、「痛い」と言ったら、きっとお母さんは、
「だから歯磨き、ちゃんとしなさいって言ったでしょ」とか、
「だから、お菓子ばかり食べちゃダメって言ったでしょ」とか・・・、
それに、「今すぐ、歯医者さんの予約しなくちゃ」
と言うに決まっています。

 歯医者さんなんて、大嫌いです。
だから、まこちゃんは
「ううん、痛くなんかないよ。ホッペが、かゆくなっただけだよ」
と言いました。
「それならいいけど・・・、痛かったら、すぐに言うのよ。虫歯が
ひどくなると大変なんだから。早く歯医者さんに診てもらわないと
いけないんだからね」
とお母さんが、言いました。


 真夜中、まこちゃんの奥歯は、どんどん痛くなってきました。
もうガマンできません。
まこちゃんは、布団から出て右のホッペを手で押さえ、
泣きながらお母さんのところへ行きました。
「イタイヨ〜」
「あ〜あ、やっぱり虫歯だったのね、昼間のうちに、ちゃんと
言ってくれれば歯医者さんで診てもらえたのに」

 お母さんは、そう言いながら台所へ行くと、保冷剤を取り出し、
タオルで包んで、まこちゃんのホッペに当ててくれました。
 まこちゃんは、お母さんの布団に入って、時々すごい痛みで
目を覚ましましたが、朝までウトウト眠りました。


 朝になって、お母さんは何度も時計を見ながら洗濯を干したり、
掃除機をかけたりしました。
「9時になったわ」
と言うと、受話器を取って歯医者さんに電話をかけました。

 「いしこ歯科さんですか・・・、娘が痛がって・・・右下の奥歯みたいです。
すぐにでも診ていただきたいのですが・・・はい、10時ですね、
お願いいたします」
そう言って、お母さんは受話器を置きました。

 「いしこ先生・・・私、あの歯医者さん怖いからイヤ」
まこちゃんが、言いました。
「まこは前に行った歯医者さんも、怖いからイヤって言ったのよ。
だから、いしこ歯科に換えたの。歯医者さんが怖いんじゃないの。
あのギーンギーンって、歯を削る音が怖いな〜って思っちゃうだけよ。
それに、いしこ先生は、ちょっと年はとってるけど上手な先生だと思うから、お母さんは気に入ってるわ」


 まこちゃんは、お母さんの自転車の後ろに座って、いしこ歯科へ
向かう間も、ずっと保冷剤でホッペを冷やしていました。
これから迎える恐怖の時間を考えると、涙がポロポロ流れてきました。


 「村木まこちゃん、中へお入りください」
歯科助手の女の人に呼ばれて、まこちゃんは、お母さんに手を引っ張られて診察室に入りました。

 まこちゃんがイスに座ると、歯科助手さんが紙のエプロンをかけてくれて、
「もうすぐ先生がいらっしゃいますから、口をすすいで待っててくださいね」
と言いました。
 次に歯科助手さんは、お母さんに詳しい症状を尋ね、それから奥へ行って今お母さんから聞いたことを先生に伝えました。

 その間も、まこちゃんの心臓はドキンドキン、奥歯はズキンズキン痛み、
目からは再び涙がポロポロ流れてきました。
診察前なのに、もうヘトヘトになってしまいました。


 すると後ろから、
「まこちゃん、こんにちは、いしこです」
と声がしました。
 まこちゃんが振り返ると、若い男の先生が微笑みながら立っていました。
「痛くて涙が出てきちゃったの?今すぐ診てあげるから大丈夫だよ。もう少しの辛抱だよ」
その若いいしこ先生は、まこちゃんの苦しみを全部分かっているようで、
とても優しく微笑みながら話しかけてくれました。

 先生の顔を見て、まこちゃんは少しホッとしました。でも、
ちょっと首をかしげて
「いしこ先生は若返りの薬を飲んだの??前のいしこ先生は、もっと、
おじいちゃんだったよ」
と言いました。
すると周りにいた先生たちが、笑いました。
「前のいしこ先生は、ぼくのお父さんなんだよ。年をとってきたから
少しお仕事を減らしてもらうの。これからは、ぼくがまこちゃんの治療をするからね」
 いしこ先生は、まこちゃんの目を優しく見つめながら話してくれました。
それが、まこちゃんの心の中から恐怖を退治してくれました。


 治療中、歯を削るギーンギーンという音は怖かったけれど、
いしこ先生が何回も、まこちゃんに
「ちょっとだけギーンギーンうるさいよ、あと少しだよ、大丈夫だよ」
と声をかけてくれたので、まこちゃんは途中、泣いたり足をバタバタさせたりすることなく無事に治療を受けられました。

「ハイ、今日は、これでおしまいです。ちょっと虫歯がひどかったから、
また次も来てください」
いしこ先生が、言いました。
「ハイ」
まこちゃんが元気よく答えたので、お母さんはビックリしました。
また歯医者さんに来るなんて、まこちゃんは、きっと嫌がると思ったからです。


 次に治療を受けたとき、
「まこちゃん、こんにちは。今日は小学校で何をしたの?」
と、いしこ先生が話しかけてきたので、まこちゃんは運動会の練習をしたことを話しました。
「それは少し疲れちゃったね。じゃあ治療を始めますよ」
と先生が言いました。

 この日の治療は、前回より簡単にすみました。
ギーンギーンというイヤな音はなく、先生がガリガリ歯を削っているようでした。
 まこちゃんは治療を受けている間ずっと、ゆりかごの中で眠っているような穏やかな気分になりました。
「痛くないですか?」
と先生に聞かれたときも、
「痛いどころか楽園気分です」
と答えたいところでした。


 「ハイ、これで虫歯の治療はおしまいです」
いしこ先生にそう言われて、まこちゃんは少しシューンと落ち込んでしまいました。
もっと、いしこ先生とお話したかったからです。

 「来週は歯ブラシ指導をするので、自分の歯ブラシを持ってきてくださいね」
そう先生に言われたとき、まこちゃんの心は舞い上がりました。
「また来週も来ていいの?」
と思わず言ってしまいました。
「まこったら、歯医者さん嫌いだったのに・・・いしこ先生やさしいもんね」
とお母さんに言われたとき、まこちゃんのホッペが少し赤くなりました。


 次の週、まこちゃんは、お気に入りのバッグの中に自分の歯ブラシを入れお母さんの自転車の後ろに座りました。

 診察のイスに座って待っていると、
「まこちゃん、こんにちは」
いつもとちょっと違う声が、聞こえました。
 振り返ると、お父さん先生がいました。
「若いいしこ先生は?」
まこちゃんが聞くと、
「今、急患の人を治療しているから、私が歯ブラシ指導しますね」
とお父さん先生が、言いました。

 まこちゃんは一瞬、息が止まりそうになりました。
「あっ、イタタタ・・・、お母さん、お腹痛いよ〜」
まこちゃんが、お腹をグッと押さえながら言いました。
「え〜、だからアイス食べ過ぎないようにって言ったのに〜。
先生すみません、トイレに行かせます」
お母さんは、お父さん先生にペコペコ頭を下げながら、まこちゃんを
トイレに連れて行きました。

 まこちゃんはトイレに入ると、耳を澄ましました。
ギーンギーンという音がしている間は、いしこ先生が急患の人を
治療しているということです。
「まこ、まだなの?」
お母さんがトイレにやってきて聞きました。
「うーん、まだ。あと少し」
そう言って、まこちゃんは、また耳を澄ましました。

 「これで今日の治療は、おわりです」
いしこ先生の声が、かすかに聞こえました。
 まこちゃんはトイレの水を流すと、急いで出てきて診察室に入りました。
すると、お父さん先生が待っていたので、
「あっ」
と小さな声で言って、1歩後ずさりしました。
でも、
「まこ、早く座りなさい。先生、お待たせしてすみませんでした」
お母さんがそう言いながら、まこちゃんの背中を押してイスまで連れてきました。

 もう、あきらめるしかありません。
 まこちゃんはだまって座ると、お気に入りのバッグから歯ブラシを取り出しました。すると
「まこちゃん、お待たせしました」
と言いながら、いしこ先生がやってきました。
「先生!」
まこちゃんは、満面の笑みを浮かべました。
「先生、このバッグ見て、まこのおばあちゃんが買ってくれたんだよ」
「かわいいバッグだ。まこちゃんに、よく似合ってるね」
と、いしこ先生は言いました。


「ハイ、これで今日は、おしまいです。おうちでもちゃんと歯ブラシをしてくださいね」
いしこ先生に言われ、
「ハイ」
と、まこちゃんは元気に答えましたが、
『また虫歯を作らないと、先生に会えないな』
と心の中で思いました。

 すると、先生がお母さんに
「今、乳歯が生え替わる大切な時期なので、1ヶ月後検診に来てくださいね」
と話す声が聞こえました。

 『検診か〜。虫歯を作らなくても、いしこ先生に会えるんだ』
と心の中で思って、まこちゃんはニコニコ笑いながら
「先生、またね」
と言いました。
「まこ、先生ありがとうございました、でしょ」
そう、お母さんに言われ、
「先生、ありがとうございました」
と言って頭を下げました。
「まこちゃん、運動会がんばってね」
と、いしこ先生は言って微笑みました。


 家までの帰り道、お母さんの自転車の後ろに座ってまこちゃんは、
お気に入りのバッグを見ながら、いしこ先生が
「かわいいバッグだ。まこちゃんに、よく似合ってるね」
と言ってくれたことを思いだしていました。
 そして大嫌いだった歯医者さん通いが、なんだかポッと温かくて、
ウキウキ気分になれて本当によかったなと思いました。





「あとがき」

 私は歯医者さんが苦手で予約時間が近づくと、お腹が痛くなるときも
ありました。
 この物語のアイディアが浮かんだのは、登場人物の”いしこ先生”のような歯医者さんに実際治療を担当してもらったときです。
 その先生は、ゆっくり落ち着いて、にこやかに話して私をリラックスさせてくれました。
誠実で優しく、ときにユーモアがある先生でした。
 今は違う先生が担当ですが、歯医者さんのイスに座ってもリラックスできる方法が身についたように感じます。




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