風の声・鳥の声
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「風の声 鳥の声」

 ある日、サリーは野原へ遊びにいきました。

 サリーが野原を走っていると
「サリー、サリー」
サリーのホッペをスルッとさわりながら、風がささやきました。

 サリーが野原の花をつんでいると
「サリー、サリー」
サリーの足をくすぐりながら、草がささやきました。

 サリーが木陰で休んでいると
「サリー、サリー」
サリーのひざに、ちょこんと座りながら、葉っぱがささやきました。

 「だれなの?さっきから、私の名前を呼ぶのは?」
サリーは、大きな声でいいました。
返事は、ありませんでした。


 サリーは目をとじて、耳をすまして、静かに息をすって、静かに
息をはきました。

 すると、ウサギがやってきて
「何か、さがしものかい?」
と、サリーにたずねました。

「私の名前を呼ぶ声の主をさがしているの。ほら、今、そこの草が
ささやいたでしょう。ウサギさん、聞こえた?」
と、サリーはいいました。
「わたしには、ちっとも聞こえないね。木の上のリスさんに聞いてごらん」
と、ウサギがいいました。


 サリーは、リスが住んでいる木を登りました。
「私の名前を呼ぶ声の主をさがしているの。ほら、今、そこの葉っぱが
ささやいたでしょう。リスさん、聞こえた?」
と、サリーはいいました。
「ぼくには、ちっとも聞こえないよ。空を飛んでいるトリさんたちに、
たずねてねごらん」
と、リスはいいました。


 サリーは、トリたちが飛ぶ空にむかって高く高く、飛んでいきました。
「私の名前を呼ぶ声の主をさがしているの。ほら、今、通った風が
ささやいたでしょう。トリさんたち、聞こえた?」
サリーが、いいました。
「わたしたちには、ちっとも聞こえないわよ」
というと、トリたちは、もっと高く飛んでいきました。

1番最後の列にいた1わだけが、サリーに近づいてきました。
「わたし、聞いたことあるの。その人だけにしか聞こえない声が、あるんですって。あなたは空に住む者ではないのだから、早く、おうちへ帰りなさい。
きっと声の主が、わかるはずよ」
そのトリにいわれて、サリーは下にむきをかえました。


 野原には、サリーのお父さんが、うでを広げてまっています。
サリーは、お父さんのうでの中に無事とうちゃくしました。


「お父さん、わたしにだけ聞こえる声があるのよ。でも声の主が、わからないの」
と、サリーがいいました。
「きっと、その声の主は、サリーのことが大好きなんだよ。
お父さんにも、その声が聞こえるといいなあ」
とお父さんはいうと、サリーをそっとベッドの上におろしました。
「ゆっくり、おやすみ」
そういって、お父さんは部屋の明かりを消しました。


 静かな部屋で、またあの声がしました。
「サリー、サリー」
声は前よりも大きく、ハッキリと聞こえてきました。
サリーには、ようやく声の主がわかりました。
「お母さん!」
もう遠い遠いところへいってしまって、会うことができないお母さんの声
でした。

「お母さん、わたし今日ね、野原で遊んだよ。走ったり、花をつんだり・・・、
木の下で休んでいたら、ウサギさんに会ったよ。木の上に登ってリスさんとも会ったよ。トリさんたちと空も飛んだよ」
サリーは、野原であったことを全部お母さんに話しました。

「お母さんは知っていますよ。だって、ずっと、サリーと一緒だったんですもの。サリーが楽しいときは、お母さんも楽しいの。サリーが悲しいときは、お母さんも悲しいの。でも、お母さんは、さびしくなんかありませんよ。だって、いつも、サリーと一緒なんですもの」
とお母さんは、いいました。
「それなら、わたしもさびしくないよ。お母さんが、いつも一緒にいてくれるんだもの」
そういうと、サリーは朝まで、ぐっすりねむりました。




『あとがき』

 この物語を書こうと思ったのは、私の近所で小学生の母親が他界してしまうことがあったからです。
 まだ母親を身近に必要とする年齢の子が、母親を失ってしまうなんて、
と私の心は、重くなりました。
 姿は見えなくても、お母さんをいつも身近に感じていられるように、と思って作った物語です。

 その後も、働いていた保育園や、わが子が通う小学校で、若い母親が
他界してしまうことが続いた時期がありました。
 母親を失った子どもたちは、園や学校をしばらく休みました。

久しぶりに登園してきた園児は、私の膝に座って、
「ママ、冷たくなっちゃったの」
と言いました。
保育園にいる間は、たくさん、この子を抱っこして、手をつないで、絵本を読んであげようと思いました。

 でも、母親の代わりは、誰にもできないと思います。
代わりの誰かではなくて、やはり、姿は見えなくても、いつでも、どこでも、
ずっと、自分を見守っていてくれているって実感できるのがいいなって、
思います。

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