のん太のおもちゃ箱
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「のん太のおもちゃ箱」

  のん太は、幼稚園の年長組に通う男の子です。
 列車のおもちゃで遊ぶのが大好きで、幼稚園から帰ってくると、
まず線路を作りはじめます。
 去年の誕生日に、おじいちゃんが電池で動く新幹線をプレゼントしてくれ
ました。
 のん太は、その新幹線に「グリーン・スーパーワン」という名前を付けまし
た。
 英語の名前は、いかにも速く走る感じがするので、自分が知っているかぎりの英語を使って、他の列車にも同じように名前を付けました。


 今日も幼稚園から帰ってくるとすぐに、子ども部屋のクローゼットから
大きなおもちゃ箱を引きずり出しました。

 今日は、おじいちゃんの住んでいる田舎を思い出しながら、線路をつなげていきました。
 途中には、長いトンネルがあります。
海沿いを走るときは、大きなカーブもあります。
川の上にかかった陸橋も渡ります。
ぐるーっと回って、1周できるように線路をつなげました。
 どんどん、お気に入りの列車を車庫に並べていきます。

 グリーン・スーパーワンは、屋根付き車庫の中で自分の出番を待っています。

 屋根なしの車庫に並んでいる1台は青い特急列車で、名前はエクスプレスブルーといいます。
これは年少組のとき、お父さんが買ってくれました。
これも、グリーン・スーパーワンと同じように電池で動きます。

 エクスプレスブルーの隣りに並んでいるのは、車輪が壊れていて、もう
ちゃんと走らない電車のプリンセスマリーです。
 これは、英語教室の友だち、まりちゃんがくれたものです。

「私、名前も考えたのよ。プリンセスマリーっていうの、いいでしょう」
この電車をくれたとき、まりちゃんが言いました。
「プリンセス?」
のん太が、そう言って首をかしげると、
「プリンセスっていうのは、王女様ってことよ。マリー王女様っていうこと、
気に入った?」
「あっ、うん。」
ダメだなんて、とても言えそうにない迫力をまりちゃんから感じたのん太は、思わずうなずきました。
 全然速そうじゃない名前とは反対に、実際のプリンセスマリーは、子ども
部屋の床の上をサーッと風を切って走りました。
あまりにも勢いよく走るので、壁や棚の、あちらこちらにぶつかって、
とうとう車輪が1つ、はずれてしまいました。

 のん太のお父さんが
「今度の休みに直してあげるから」
と言っていますが、
「あれ、また忘れちゃったな。ごめんごめん、次の休みには必ず直すから」
と言って、いつも休みが終わります。


 車輪が壊れているのに、プリンセスマリーはその名の通り、気高く車庫で
出番を待っていました。

「あなた、電池で走るんですってね」
プリンセスマリーが、隣りのエクスプレスブルーに話しかけました。
「そうですよ、のん太が、スイッチオンするだけで、ボクの、この青いボディが
発車するんです。風を切って走る姿は、勇者そのものでしょう」
「まあ、私には、ネコに追いかけられ逃げ回るネズミのように見えますわ。
だって、いつもあなたの後ろには、グリーン・スーパーワン様がお走りになっていらっしゃるんですもの」
「ボクが、ネズミだって!・・・それなら、グリーン・スーパーワンはネコじゃないか!」
「それは、違いますわ。あなたは、逃げ回るネズミに見えても、あの方はネコになんて、ちっとも見えませんわ。強いて言うなら、たてがみが日の光に当たり、緑に輝く白馬ですわ」
「ふん、勝手になんとでも言ってくれ!」
プリンセスマリーの口に勝てる列車は、誰ひとりいませんでした。

「ところで、今日、あなたの隣に来るのは誰でしょうね」
エクスプレスブルーが言いました。
「さあ、どなたにせよ、紳士的な方であってほしいわ、この私の隣に並ぶに
ふさわしい方」
そう言ってプリンセスマリーは、ボディをピンとまっすぐ伸ばしました。


 のん太は、おもちゃ箱の中をガチャガチャ手でかき回しながら、車庫に入れる残りの1台を探しました。
 のん太が、オレンジ色の電車をつかんだとき
「たまには、ボクを走らせてくれよ、のん太くん」
とオレンジスリーは、お願いしました。
でものん太は、やっぱりやめた、と言わんばかりにオレンジスリーをおもちゃ箱に投げました。
「あっイテテテテテ、のん太が3歳になったとき、ボクはこの家に来たんだ。あの頃は、のん太が起きている間は、ボクも、ずっと走り続けたものさ。
のん太が眠るときは、ボクも、いっしょの布団で眠ったんだ」

オレンジスリーがブツブツ独り言を言っていると、下敷きになっていた黒い
機関車が、ゴソゴソ動いて顔を上に出しました。
「あ〜重かった。あなたのように車輪が金属でできていると重いし、ボクの
ボディはキズだらけになるんですよ」
ゴッキーが言いました。

 ゴッキーは、のん太がお祭りの時のクジで当てた機関車で、真っ黒く
安物のプラスチック製なので、あまり、のん太に遊んでもらえませんでした。
おまけに、ゴキブリみたいだからとゴッキーと名付けられました。
「キズだらけになる前から、お前のボディは汚いだろ!なんたって、ゴキブリのゴッキーだからな、アハハハ」
そう言ってオレンジスリーは、お腹をかかえながら笑いました。
オレンジスリーは、どちらかというと太めのボディなので、笑うときはいつも、自分の重たいお腹をかかえました。

 ゴッキーは自分が安っぽい機関車だということを、十分承知していましたので、何も言い返しませんでした。
そうすることは、たとえ安物のプラスチック製でも、自分が機関車であるという誇り高いゴッキーの気持ちを満足させました。


 最後に、のん太が選んだのは、一両車両の黄色い電車でした。
「やっぱり、イエローボーイがいなくっちゃ」
のん太はそう言って、おもちゃ箱から出したイエローボーイをプリンセスマリーの隣に並べました。

すると、おもちゃ箱の中から、次々と声が聞こえてきました。
「けっきょく、いつもこうなんだ!」
「さんざん、おもちゃ箱の中の俺たちをかき回しておいて!」
「そうさ、変に俺たちに期待させるようなことをしてさ!」
おもちゃ箱に残された電車たちが、口々に文句を言い合いました。


 車庫では、プリンセスマリーの隣に並んだイエローボーイが
「ボクこそが、ヒーローさ。この輝くボディ、そして身軽な走り、ヒーローは
最後に登場するのさ」
そう言うと、プリンセスマリーに向かって片目をパチッと閉じました。
「まあ、私に向かってウィンクするなんて、百億年早くてよ。あなたは身も心も軽すぎるわ、イエローボーイ!」
そう言うと、プリンセスマリーはプイッと横を向きました。


 ちょうどそのとき、のん太が屋根付きの車庫からグリーン・スーパーワンを取り出し、線路の上に置きました。
「僕は、自分を誇りに思うよ。選ばれた中の1番でいられるとは、なんて幸せなんだ」
グリーン・スーパーワンは、そう言うと、軽く会釈したようでした。
 その姿に見とれたプリンセスマリーは、まるで自分に会釈したと思って
ホッペが一段と真っ赤になりました。
「なんてたくましい。それでいて品のある、お姿なんでしょう。やはり日の光を浴び、たてがみが緑色に輝く白馬のようですわ」
そう言ってプリンセスマリーは、ひとり夢見心地にひたっていると、その目を一気に覚ますような大きな声で
「出発進行!」
とのん太が叫び、グリーン・スーパーワンのスイッチをオンに入れました。

 その途端グリーン・スーパーワンは、線路の上を一気に走り出しました。
まるで、草原を駆け抜ける白馬のようです。
 のん太が作った上り坂も猛スピードで走り続け、下り坂では、もっとスピードが増しました。
 トンネルをくぐり抜け、海沿いの大きなカーブでは、少しスピードが落ちたように感じられましたが、次の直線で再び猛スピードになりました。

 今日、のん太が作った線路の不安地帯は、次に来る陸橋です。
その陸橋をうまくグリーン・スーパーワンが走ってくれるか、のん太は心配でした。
でも、そんな心配は全く無用でした。
グリーン・スーパーワンは、少しもスピードを落とすことなく陸橋を渡りました。
「到着!」
のん太が叫びながら、グリーン・スーパーワンのスイッチをオフにしました。

 車庫で、自分の出番を待っているエクスプレスブルーもイエローボーイも、もちろんプリンセスマリーも、みんな拍手喝采を送りました。
「あ〜、何度見ても、彼の走りは素晴らしい」
「ボクも、つい見とれてしまうよ」
エクスプレスブルーとイエローボーイが、思い思いに感嘆の言葉を
言いました。
 プリンセスマリーだけは、一言もしゃべりませんでした。
ただただ、うっとりと彼を眺めるばかりです。
 グリーン・スーパーワンは、静かに屋根付き車庫に戻りました。
その静けさが、彼の風格をより一層素晴らしくさせました。


 次にスタートラインに立ったのは、エクスプレスブルーでした。
彼は目を閉じ、今さっき見たグリーン・スーパーワンの走る姿を思い出していました。
 そうすると、自分もあんな風に走れるような気がしてくるからです。

 「出発進行!」
のん太はそう言って、エクスプレスブルーのスイッチをオンしました。
 線路の上をスムーズに走る姿は、グリーン・スーパーワンほどではなくても、やはり、のん太のおもちゃ箱の中ではスター的存在です。

「この走りは、青いヤツだな」
「きっとそうだな。この線路をこするような音が、あいつの特徴さ」
「最近、ちょっとスピードが落ちたんじゃないか」
「そうだな。きっと、もうすぐ電池切れさ」
おもちゃ箱に残された電車たちは、口々に好き勝手なことを言いました。

 そのとき、ガチャンという音が聞こえたかと思うと、車輪が空回りしている音が聞こえてきました。

「何があったんだ?」
「脱線したのか?」
「静かにしろよ」
おもちゃ箱の中では、みんな耳を澄まし、外の様子をうかがうことにしまし
た。

 のん太は、脱線したエクスプレスブルーのスイッチをオフにしました。
「あ〜、やっぱり陸橋がダメか・・。さっきは、上手くいったのになあ、
グリーン・スーパーワンみたいにスピードが速くなくちゃ、この陸橋は渡れないんだ」
独り言を言いながら、のん太は崩れた陸橋を直し始めました。
「違うよ、のん太くん!ボクが陸橋に来たときは、もうすでに線路のジョイントが、ずれていたんだ。グリーン・スーパーワンが通った後に、はずれかかっていたんだよ。ちゃんと、ジョイントをつないでくれれば、ボクだって、この陸橋を上手く渡れるさ」
エクスプレスブルーは、脱線の原因は決して自分ではないことを伝えようとしました。でも、のん太には、分かってもらえないまま、車庫に戻されました。


「まあ、きみの無念はボクが晴らしてくるよ」
落ち込んでいるエクスプレスブルーを励まそうと、イエローボーイが
話しかけましたが、何も返事がないので、
「きみも、ボクを応援してくれよ」
とプリンセスマリーに話しかけました。
ところが、彼女はボーッと遠くを見つめるばかりです。
「いったい何なのさ!」
イエローボーイも、彼女が見つめる方を見ました。
すると、なんということでしょう。
 線路の上では、再びグリーン・スーパーワンが発車の準備をしているではありませんか。
プリンセスマリーは、その姿をうっとり見つめていたのです。

「待って!次はボクに走らせてくれよ」
イエローボーイが、叫びました。
 その途端、グリーン・スーパーワンは発車し、再び先程と同じように
草原を走る白馬のような走りを見せました。
 次に走ったイエローボーイは、海沿いの大きなカーブの途中で脱線してしまいました。
身軽なために、スピードが出すぎてしまったようです。


 そのとき、子供部屋のドアが開いて、のん太のお母さんが入ってきました。
「のん太、英語教室へ行く時間よ。早くレッスンバッグを持ってきなさい」
そう言って、お母さんは出ていきました。
 のん太は、慌ててレッスンバッグをとると、車庫に置いてあるプリンセスマリーもバッグの中に入れました。

 あまりにも急いでいたので、部屋を出る前に、おもちゃ箱を蹴飛ばし中味をばらまいてしまいました。

「あ〜、久しぶりに明るい外へ出られたぞ」
「やあ、君、お久しぶりだね。まだ捨てられていなくて、お互いよかったな」
蹴飛ばされたおもちゃ箱から、床に飛び散った電車たちが、お互いに挨拶を交わしました。

「やあ、おいぼれじいさんのブリッキーも、まだいたのかい」
「一言も声を聞かないから、てっきり永遠の眠りに入ったのかと思ったぜ」
「たとえ永遠の眠りに入っても、じいさんは、捨てられることはないからなあ」
「なんでだい?俺の親友だった新幹線は、プラスチック製だったから、ボディが割れちゃって捨てられたんだ。じいさんは、ブリキでできてるから、へこんで、まっすぐ走れないじゃないか。なのに捨てられないのは、なぜだい?」
「ブリッキーは、のん太のお父さんの、お気に入りなのさ」
数台の電車が勝手なことを言っている間も、ブリッキーは目を閉じたまま黙っていました。


 そのとき、バタンとドアが独りでに閉まりました。
その風の勢いで、ゴッキーがブリッキーのところまで走ってきました。
ブリキにプラスチックがぶつかって、「タン」という鈍い音がしました。
ブリッキーが、薄目を開けました。
「あっ、ごめんなさい。ボクはボディが軽すぎて、止まらないときがあるんで
す。」
ゴッキーが、あやまりました。
「別に、気にするな」
ブリッキーはそう言って、再び目を閉じました。


 その日、のん太は夜遅くなって自分の部屋に戻ってきました。
「あ〜、おもちゃ箱、蹴飛ばしちゃったんだっけ。でも、眠いからお片付けは明日でいいや」
そう独り言を言って、ベットにもぐりました。

 その夜は空気が澄んでいて、ちょっと肌寒く感じました。
星が赤や黄色や青に輝いて、月明かりが、のん太の部屋にも差し込んできました。
 シューッシュー。
線路の上では、ブリッキーとゴッキーが連結されてスタンバイしていました。

「のん太くん、早く乗ってください、もう出発しますよ」
ゴッキーが、のん太を呼びました。
「うん、わかってる、プリンセスマリーを探してるんだ」
「レッスンバッグの中ですよ」
「あっ、そうだった」
そう言って、のん太はバッグの中からプリンセスマリーを取り出すと、
ブリッキーに飛び乗りました。

「シュッシュッ、出発するぞ。ゴッキー、後ろからちゃんと押してくれよ」
ブリッキーの、こんなに力強い声をゴッキーとのん太は、初めて聞きました。
「まかしてください。ボクだって、立派に走れる機関車なんです」
ゴッキーの、こんなにたくましい姿をブリッキーとのん太は、初めて見ました。
「シュッシュッシュ、さあ、出発進行!」
ブリッキーが大声を張り上げ、ゆっくり走り出しました。


 のん太は、客席の窓を開けました。
顔に冷たい風があたり、すっかり目が覚めました。
 今夜は月が明るいので、変わりゆく景色を照らしつづけてくれます。
長いトンネルに入ったとき、真っ暗になって、のん太は少し怖くなりました。
後ろのゴッキーが、ポッポーと汽笛を鳴らしつづけてくれたので、すぐに、怖さは吹っ飛びました。

 トンネルをぬけると、夜の海が視界いっぱいに広がりました。
墨のような真っ黒ではなく、スプーンにすくったコーヒーゼリーがプルプルッとした感じに似ていました。
 のん太のお母さんはコーヒーゼリーを食べるとき、いつもスプーンの上でプルプル震わせてから、口を大きく開けて食べました。

 海沿いの大きなカーブをすぎると、もうすぐ小さな駅に着きます。
そこは、のん太のおじいちゃんが住む町です。
でもその手前で、川の上にかかった陸橋を渡らなければいけません。
ブリッキーは、この陸橋が心配でした。
この陸橋の上で、少しでもスピードを落とすと脱線してしまうのです。

 のん太が作る陸橋は、いつも、いまいちのできでした。
グリーン・スーパーワンのような高速で走る新幹線だけが、無事に渡ることができました。
「ゴッキー、もうすぐ陸橋だ。お前の力を1番借りたいところなんだ。しっかり押してくれよ」
ブリッキーが、大声で叫びました。
ゴッキーは疲れがたまってきて、息をハーハーさせていました。
でも、ここでくたばっては、やっぱりゴキブリのゴッキーで終わってしまいま
す。
「ボクにまかせて!」
そう言うと、ゴッキーはポッポーと大きな汽笛を鳴らし、力一杯走りました。
無事に、陸橋を渡ることができました。

 もうすぐ、駅です。
ところが、ブリッキーは少しもスピードを落とす様子がありません。
駅を通り過ぎ、町の道路の上を走り続けました。
のん太は、大喜びです。
「このまま、おじいちゃんちまで連れて行ってくれるんだね」
後ろで、ゴッキーがポッポーと返事をしました。


 おじいちゃんちの庭に着いたとき、ブリッキーがポッポーと汽笛を鳴らしました。
 のん太はブリッキーから降りると、走って、おじいちゃんちの中に入りまし
た。
 おじいちゃんは玄関に座って、靴を履こうとしているところでした。
「のん太、来てくれたのかい。おじいちゃんは、もうすぐ出かけるところだったんだ。いいときに、来てくれたなあ」

 そのとき庭で、ブリッキーが再び、ポッポーと汽笛を鳴らしました。
「おっ、あいつも来てるのか」
そう言って、おじいちゃんは靴紐をしっかり結び庭へ出ました。

「ブリッキー、久しぶりだな」
おじいちゃんは、ブリッキーをなでながら言いました。
「シュッシュッシュ−、おじいちゃん、のん太、早く乗ってください。もう出発
しますよ」
ブリッキーが言いました。


ふたりが客席に座ると、ブリッキーはすぐに走り始めました。後ろから
ゴッキーも押しています。
 ブリッキーは、しばらく道路を走ると線路にはのらず、そのまま夜空に向かいました。
後ろからゴッキーが、ウーンとふんばって押し上げています。
ブリッキーもゴッキーも、汗びっしょりになりました。

 しばらく上昇して、やっと軽やかな走りになりました。
「おじいちゃん、すごいね。ボクたち海の上を飛んでるよ」
のん太が言いました。
「飛んでるんではないさ。ブリッキーにしか見えない線路の上を走っているのさ」
おじいちゃんは、ブリッキーのことは何でも知っている、と言わんばかりの
言い方をしました。
 夜空の星も、海の水面も、キラキラと輝いています。
まるで、宇宙空間を旅しているようでした。


 ブリッキーは、再びおじいちゃんちの庭に到着しました。
庭では、近所の人たちが集まっていて、珍しそうに機関車を眺めました。
 女の人が、一人やって来て
「イワオさん、こんなに寒いのに薄着で出ちゃダメでしょう」
と言いながら、おじいちゃんを連れて行ってしまいました。

「シューッシュー。さあ、のん太、出発だ。早く乗って」
ブリッキーが、せかしました。
 のん太は、おじいちゃんの背中に向かって手を振りながら急いで乗りまし
た。
出発してすぐに、のん太はグッスリ眠ってしまいした。


 「のん太、起きて!これから、おじいちゃんちへ行くの。急がないといけないのよ」
お母さんが慌てて、のん太を起こしに来ました。
のん太が寝ぼけている間に、着替えもトイレもすみました。
お父さんが
「まだかー」
と運転席から呼びました。
 お母さんが、のん太を抱っこしたまま車に乗り込みました。
のん太は、何が何だか分からないままチャイルドシートに座った途端、
再び、眠ってしまいました。


「のん太、起きて、着いたわよ」
病院の玄関前で、のん太とお母さんは降りました。
 駐車場に車を置いてきたお父さんは、小走りで病院の中に入ってきて、お母さんも、のん太の手をに引っ張りながら、小走りでおじいちゃんの病室へ向かいました。

 お父さんは、病室のドアをノックしました。
中から女の人が
「どうぞ」
と言ったので、お父さんもお母さんも恐る恐る入りました。
「父さん!」
お父さんが、大きな声で呼びました。
「なんだね、病院で、そんなデッカイ声出だして」
おじいちゃんが言いました。
お母さんは、鼻からフーッと息を吹き出しました。
「だって、キトクだって、電話もらったから」
お父さんは、肩の力が抜けたようでした。
「この通り、元気だよ。のん太も来てくれたのかい、こっちへおいで」

 のん太の頭の中は混乱していたので、首をかしげながら、
おじいちゃんのところへ行きました。
「大きくなったなあ」
そう言いながら、おじいちゃんは、のん太の頭をなでました。

 お父さんとお母さんは、おじいちゃんの家へ入院に必要な物をとりに行きました。


 「真夜中に、ブリッキーに乗って会いに来てくれて、ありがとうな」
おじいちゃんが言いました。
「やっぱり、夢じゃなかったんだね!」
のん太の顔が、パーッと明るくなりました。
「夢なんかじゃないさ。ブリッキーのやつ、とっくに老いぼれてると思ったら、あんなデッカイ汽笛ならして、のん太を連れてきてくれて・・・。おかげで、
おじいちゃん、この世に戻ってこられたよ」
そう言うと、おじいちゃんは再び、のん太の頭をなでました。

「やったー、夢じゃなかったんだー。本当に、ブリッキーやゴッキーと一緒に
おじちゃんちに行ったんだ、夜空の線路の上を走ったんだ」
のん太は、うれしくなってベッドの周りを飛び跳ねました。

「ブリッキーは、おじいちゃんがおもちゃ工場で働いている頃からの友達なんだよ。欠陥品をいくつか、おじいちゃんが家に持って帰って、作り直したんだ。そうやって出来たのが、ブリッキーさ。のん太のお父さんが、とても気に入って、寝るときも、はなさなかったなあ」
おじいちゃんは、ブリッキーの話をしてくれました。
 おじいちゃんは、のん太におもちゃ工場で働いていた頃の話をたくさんしてくれました。


 そこへ、お父さんたちが戻ってきました。
「父さん、隣のおばさんに世話になったから、あいさつしてきたよ。真夜中になんだかすごい音がして、みんなビックリして飛び起きたんだって。イワオさんちの方だと思ったら、もう1度大きな音が聞こえたから、警察呼んで、中に入ってもらったんだってさ。そしたら、父さんが玄関で倒れてたって。・・・今回は、早く気づいたから助かったけど・・・、心臓の薬は、ちゃんと飲んでるのかい?」
「ああ、昨日は変な時間に眠くなって、薬を飲み忘れた。心配かけてスマンかったな」
「私たちこそ、これからは、もっとちょくちょく会いに来ますね」
お母さんが言いました。

「ボクね、おじいちゃんと、おもちゃの機関車の話をたくさんしたよ」
のん太が言いました。
「あっそうそう、はい、プリンセスマリー。おじいちゃんちの庭に落ちてたのよ。今朝、あんなに寝ぼけてたのに、ちゃっかりお母さんのカバンの中に入れたのね。お母さん、おじいちゃんちの門から玄関まで走ったから、プリンセスマリーが、カバンから落ちたのに気がつかなかったんだけど・・、入院の準備を済ませて、車に乗る前に庭で見つけたの」
お母さんは、ちょっとプリンセスマリーのことは、しっくりいかないような表情をしました。

 のん太は、プリンセスマリーを夜中、おじいちゃんちの庭に落としたことに気づきませんでした。
 そう言えばあのとき、ブリッキーが早く乗って、って言ったから、慌てちゃったんだ。のん太は心の中で、つぶやきました。
「プリンセスマリー、ごめんね」
とのん太が、あやまると
「庭は、さぞ寒かっただろうなあ」
とおじいちゃんが言って、プリンセスマリーをさすりました。
そして二人して顔を見合わせ、ニタッと笑いました。


「父さん、今週末に、また来るから。ちゃんと看護婦さんや先生の言うことを聞いてくれよ」
お父さんが言いました。
「無理して来なくていいぞ。今日はスマンかったな」
そう言って、おじいちゃんは手を振りました。
 その姿を見て、のん太は思わずおじいちゃんに走り寄って、抱きつきまし
た。
「のん太、ありがとうな」
おじいちゃんは、そう言って、のん太の背中をさすりました。

 「母さんが死んでから父さんと大して話すこともなくなって、つい、遠のいてたけど、のん太と気が合うみたいだから、これからは、もっと会いに来るか」
車のエンジンをかける前に、お父さんが独り言のように言いました。


 家に帰ってくると、のん太は、すぐにおもちゃ箱のところへ行きました。
部屋の隅に、ブリッキーとゴッキーが連結されたまま止まっていました。
のん太は、その2台を屋根付き車庫に入れました。
「ボクが、この屋根付き車庫に入れるなんて、夢にも思いませんでした。
感激です」
ゴッキーが言いました。
「お前は、この車庫に入るのにふさわしい、すばらしい活躍をしたよ。お前の助けなしで、俺は、のん太をおじいちゃんのところへ連れていくことはできなかった。ありがとう」
そう言ってブリッキーは、いつものように静かに目を閉じました。
 のん太は、隣の車庫にプリンセスマリーを並べました。

 そして、散らかった部屋の床を眺めました。
「この電車に、まだ名前付けてなかったね。そうだなあ・・・」
「やあ、久しぶり。グレイドラゴン」
1台1台に話しかけながら、おもちゃ箱の中にしまいました。

 車庫では、プリンセスマリーが、
「ブリッキーとゴッキー、私も夜の旅ができて、とても感激しましたわ。
とてもロマンチックでステキな旅でした。ありがとう。のん太が帰り、慌てて
乗車したとき、私が落ちたことに気づいてくれなくて・・・今、思い出しても、あれは恐怖でしたわ。私、朝が来るまで目を閉じて、必死で、あのステキな夜の旅のことだけ、考えていましたの」
そう言って、静かに目を閉じ、深呼吸をしました。
 その姿を見て、ブリッキーとゴッキーも静かに目を閉じ、昨晩の旅を
思い出していました。


 それから、しばらくの間、のん太は毎日、違う電車や機関車を車庫に並べてから線路で走らせることにしました。
 いろんな走りを楽しみたいと思ったからです。




「あとがき」

 この物語のアイディアが浮かんだのは、保育園で仕事をしている頃です。
私は補佐でしたので、いろいろなクラスの子どもたちを、お世話していまし
た。

 子どもって、本当に、ごっこ遊びが好きなんだって思いました。
 女の子たちは、古いワイシャツで作った白衣を着て、お医者さんごっこを
していました。
他には、スチュワーデスごっこ。
「先生、首に、これ結んで」とスカーフを持って、私に頼んできます。
搭乗客に食事や飲み物をサービスするんです。

 男の子たちは、車や電車のおもちゃで線路の上を走らせたり、
競争したり、ぶつけっこしたりしてました。

 1歳男児は、一緒に見ようと言わんばかりに、乗り物の本を持って
きました。
私がページをめくると、「うんうん」と言いながら、本の中の写真を指さします。
 私が写真の下の説明文を読むと、「シューッ」と走る音を発したりしました。

 私の息子も幼い頃は、乗り物のおもちゃで遊ぶのが大好きでした。
床に寝転んで、何か独り言を言いながら、ミニカーや電車のおもちゃを押したり、走らせたりしていました。

 あの頃の息子のことや、保育園児のことを思い出して、この物語の世界を膨らませていきました。

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