パオ〜ゴン
創作オリジナル、児童文学、小説、ショートショート、エッセイ 「創作の部屋」
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「パオ〜ゴン」

 むかしむかし、ある村に重い病気にかかって、苦しんでいる母親がいました。
 母親には二人の息子がいて、上の息子は15歳で名は太郎、下の息子は12歳で名は次郎と言いました。
 二人の父親は、妻の病気を治せる薬を探しに家を出たきり、1ヶ月が過ぎても帰ってきませんでした。

 「もう父ちゃんを待っていてもムダだ。オレが母ちゃんの病気を治せる薬を探しに行く」
そう言って太郎は家を出ていきました。


 太郎が東の山を二つ越えた谷間で一休みしていると、
「パオゴン、パオゴン」
という鳴き声が聞こえてきました。
はて?・・こんな奇妙な鳴き声をする生き物がいただろうかと不思議に思い、辺りを見回しました。
「パオゴン、パオゴン」
と再び鳴き声がしたので、声のする方へ歩いていくと、何とも良い香りがしてきました。
 太郎は鼻の穴をウーンと大きく開いて、クンクンさせながら香りのする方へ歩いていきました。

 大きな岩の向こう側に来ると、そこには小さな泉がありました。
泉の隣に小屋があって、その窓から良い香りが漂ってきました。
 太郎が窓からそっと中をのぞくと、そこでは一人の老人が、お茶をたてていました。
 老人はお茶をたてる手を止め、
「中にお入りなさい」
とおごそかな声で言いました。
 太郎がキョロキョロすると、
「窓の外にいるお前に言っているのだよ」
と老人は、お茶をじっと見つめながら言いました。
 自分のことなのだと思い、太郎は恐る恐る小屋に入りました。

 「そこに座りなさい」
老人に言われるまま、太郎は老人の目の前に正座をしました。
「ここに何しに来たのかね?」
老人が太郎の目を見て言いました。
「旅の途中に一休みをしていたら、奇妙な鳴き声が聞こえて、そのうち何とも良い香りがしてきたから匂いの方へやって来たんだ」
太郎は答えました。
「どこへ旅をしているのだね?」
老人が尋ねました。
「どこって・・・。母ちゃんの病気を治せる薬を探しているんだ」
太郎が答えると、
「ワシのたてる茶は、どんな病気にも効くぞ。病気にかかっていない者でも、飲めば一気に力がわいてくる。さあ飲んでごらん」
そう言って老人は、太郎に今たてたばかりのお茶を差し出しました。
 太郎は二つの山を越えてヘトヘトでしたので、目の前のお茶を一気に飲み干しました。
 するとモリモリ元気がわいてきて、思わず老人の前でピョンと飛び跳ねてしまいました。
「若い者には効き目が早いな」
老人はボソボソと独り言のように言ってから、
「この茶葉は、小屋の裏で飼っているパオ〜ゴンの体内で作られているのだ。家に持って帰り、お前の母親にも煎じて飲ませてやりなさい。必要ならば、いつでもワシのところに来るがよい」
と老人は、物静かに言い、そして太郎の目を見て微笑みました。
 太郎は親切な人と素晴らしいお茶に出会えて良かったと思い、礼を言って小屋を出ていきました。


 小屋の裏側に回ると、そこには象の頭部に2本の角が生えていて、胴体は竜のような姿をしている大きな生き物がいました。
それがパオ〜ゴンでした。

 太郎は老人に言われたとおり、パオ〜ゴンのシッポの上をホウキで掃きました。
 するとパオ〜ゴンは、「パオゴン、パオゴン」と鳴き声をあげ、シッポの下からポトンとマリのような形をした茶葉の塊を落としました。

 太郎はパオ〜ゴン茶を拾うと、上を向いて「ありがとう」と言いました。
太郎を見下ろしたパオ〜ゴンの目は、とても悲しそうでしたが、太郎はパオ〜ゴンのことなど気にも留めず、急いで家に向かって走り出しました。


 丸三日かけて山二つ越えてきたのに、帰りはその日のうちに家に辿り着きました。
これがパオ〜ゴン茶の効き目なのでしょう。

 家に着くと、早速お茶を煎じて母親に飲ませました。
太郎はパオ〜ゴン茶の香りに誘われ、自分も湯飲み茶碗一杯分、飲みました。


 しばらくして、母親は自分で起き上がれるようになりました。
太郎は夜になっても元気いっぱいのまま、月明かりの下で畑仕事をしました。
 朝になって母親にパオ〜ゴン茶を飲ませると、太郎は自分も飲まずにはいられなくなって、湯飲み茶碗一杯分飲みました。

 母親は日に日に元気になり、笑顔で話せるようになりました。
太郎も毎日パオ〜ゴン茶を湯飲み茶碗一杯ずつ飲んで、働いても働いても疲れ知らずの体になりました。


 パオ〜ゴン茶が全てなくなったとき、母親はすっかり病気が治り、畑仕事に出られるようになりました。
 ところが、太郎はグッタリとして起き上がることさえできなくなりました。

 太郎は弟の次郎にパオ〜ゴン茶をもらってくるよう頼みました。

 次郎は太郎に教えられたとおり、東の山を二つ越えた谷間にある小屋へ行きました。

 小屋の中には誰もいなかったので、勝手に裏へ行き、パオ〜ゴンのシッポをホウキで掃こうと思いました。
 象の頭部に2本の角がはえていて胴体が竜の姿をしているパオ〜ゴンに、今にも食べられてしまいそうで、ビクビクしながら次郎は近づきました。
 ふと次郎がパオ〜ゴンの足もとを見ると、左足は太いクサリでつながれていました。
 足がクサリでつながれているのなら大丈夫だと少し安心して、パオ〜ゴンのシッポの上をホウキで掃きました。
 パオ〜ゴンが「パオゴンパオゴン」と鳴き、マリのような形をしたお茶の塊をシッポの下から落としました。

 次郎は上を見上げると
「ありがとう」と言いました。
 上から見下ろしたパオ〜ゴンの顔は悲しそうでした。
次郎とパオ〜ゴンは、しばらく見つめ合いました。

 次郎がパオ〜ゴン茶を拾おうとすると、突然パオ〜ゴンはドスンと右足で足踏みをしてパオ〜ゴン茶を転がしました。

 次郎が慌てて追いかけていくと、お茶の塊は近くにある洞窟の入り口で止まりました。
 洞窟の中の方では、ろうそくの火がともされ、人の話し声がします。
次郎は、そっと明かりの方へ歩いていきました。

 そこでは数十人の大人たちが、腰に水筒をぶる下げ、働いていました。
次郎は耳をそばだてて、大人たちの話し声を聞きました。
 どうやら、この洞窟の中を掘って、宝石を掘り出しているようです。

 一人の男が手を休め、水筒の中身を飲み干しました。
「あ〜うまい。パオ〜ゴン茶さえあれば、オレは他には何もいらない」
そう言った男の顔を見て、次郎は驚きました。
「父ちゃん」
そのとき、父親の近くにいた男が突然バタンと倒れました。
「おい誰か、こいつにお茶を飲ませてやってくれ。オレの水筒は空っぽだ。夕方にならないと、お代わりはもらえないからな」
父親が言いました。
 兄の太郎もパオ〜ゴン茶がなくなって元気をなくしてしまったことが、次郎の頭をよぎりました。
 それに、パオ〜ゴンが次郎を見たときの悲しそうな顔も、今になって気がかりになってきました。

 次郎は、パオ〜ゴンのところへ走っていきました。
「ねえ、教えて。どうしてオイラの父ちゃんがここにいるんだい?どうしてお茶を飲まないと元気がなくなるんだい?」
次郎は、上を見上げて言いました。
パオ〜ゴンは何か言いたそうでしたが、
「パオーパオー」と小さな声で鳴いただけでした。
「お前の言いたいことが分からないよ。オイラはどうすればいいんだい?」
次郎が言いました。

 するとパオ〜ゴンは顔をグーンと次郎に近づけ、長い鼻で次郎を抱き上げると、スルッと自分の口の中へ入れてしまいました。
「ワーッ」次郎はパオ〜ゴンの体の中を滑り落ちていき、アッという間にシッポの先に辿り着きました。
「フーッ。長い坂を滑り降りたみたいで面白かった」
そう言って、次郎はパオ〜ゴンの体の中で立ち上がりました。

「私の言うことを良く聞くんだ」
パオ〜ゴンの声が、聞こえてきました。
「次郎、私の悲しみに気付いてくれたのは、お前が初めてだ。他の者たちは、お茶が手に入ると、私のことなど気にかげず去ってしまった。私はライーゴンにだまされ、長い間ここにとらえられている。私のシッポの一番先にカギがあるはずだ。そのカギを持って私の体の外へ出てきて、クサリをはずしてほしい」
 パオ〜ゴンに言われ、次郎は腹ばいになってシッポの先の方へ行き、カギを見つけました。
「カギがあったよ。オイラは、どうやってお前の体の外へ出ればいいんだい?」
そう次郎が言うと、パオ〜ゴンはその場に横たわりました。
次郎はパオ〜ゴンの体内を歩いて、口から外へ出ました。

 そして、足もとのクサリにかかっている錠をはずしてあげました。
「ありがとう。助かった」
 パオ〜ゴンはそう言ってから、長い鼻で次郎をつかまえ、自分の頭の上にのせました。
 次郎は落っこちないように、2本の角をしっかり握りしめました。


 パオ〜ゴンは歩いて小屋の前へ行き、そこにある泉の水をゴクゴク飲み干しました。
「あ〜これで、私は力を取り戻すことができた」
と言うと
「パオ〜ゴンパオ〜ゴン」と大声で鳴き、朱色の煙を吐き出しながら空中に舞い上がりました。

 洞窟の前まで来ると、中に向かってパオ〜ゴンパオ〜ゴンと鳴きながら朱色の煙を吐き続けました。
 洞窟の中で働いていた男たちは、煙を吸って全員が倒れてしまいました。

 そのとき、パオ〜ゴンの後ろから
「ドゥクンセイ族のパオ〜ゴン、力を取り戻したな。勝手は許さん!ワシは未だパオ〜ゴン茶の力が必要なのだ!」
と大声がしました。
 太郎に茶をたててくれた老人でした。
「ライーゴン!私こそ、お前を許すわけにはゆかん!パオ〜ゴンパオ〜ゴン」と叫ぶと、パオ〜ゴンは老人に向かって朱色の煙をはき出しました。
 その瞬間、老人は大きな竜のような姿に変身しました。

 その魔物の頭部はライオンのようで、胴体は黒と紫の縞模様でした。
魔物は「ライーゴンライーゴン」と叫びながら、紫色の煙を吐き出しました。
「ライーゴン、お前もドゥクンセイ族の仲間であったろうに。己の欲望を止められなかったな!」
 そう言うと、パオ〜ゴンは朱色の煙をそれまでの倍の強さで吐き出しました。
 パオ〜ゴンとライーゴンは空中を舞いながら、煙を吐き続けました。

 次郎はパオ〜ゴンから落ちないように必死で角につかまっていました。

 しばらくすると、ライーゴンは口から紫の炎を吐き出しました。
とっさに、パオ〜ゴンは自分の鼻から、先ほど飲んだ泉の水を吐き出しました。
 泉の水を浴びたライーゴンは、地面にバタンと倒れました。
パオ〜ゴンも地上に降り、頭上の次郎を降ろしました。

「こいつは死んだの?」
次郎が聞くと
「イヤ、気を失っているだけだ。ライーゴンを死なすわけにはいかない。ドゥクンセイ族にとって、ライーゴンは必要だ」
とパオ〜ゴンは答えました。
「でも、こいつは魔物だろ?」
次郎が言いました。
「欲望という魔物に操られたんだ。目が覚めれば、元の仲間に戻っているさ」
とパオ〜ゴンが言いました。
次郎は、フウ〜ンという顔をしました。


「ねえ、オイラの父ちゃんは?」
次郎が尋ねました。
「洞窟へ行ってごらん。もうそろそろ全員、正気に戻っている頃だから」
パオ〜ゴンが言いました。

 次郎が洞窟に着くと、一人、また一人、中から男たちが出てきました。
みんなウーンと体を伸ばしたり、大あくびをしました。
「父ちゃん!」
次郎が叫ぶと、
「おう次郎」
父親が大きく手を振りました。


 次郎と父親は、パオ〜ゴンの頭に乗って山二つ越えた家に戻りました。


 パオ〜ゴンは二人を降ろすと
「パオ〜ゴンパオ〜ゴン」と鳴き、朱色の煙を吐き出し、家全体を煙で包み込みました。

 しばらくすると、太郎が大あくびをしながら出てきました。
「次郎・・・父ちゃん!」
そう言って二人の元へ走ってきました。
 そこへ、畑から母親も帰ってきました。
ようやく家族がそろって、母親の目からは涙があふれ出てきました。


「パオ〜ゴン、ありがとう」
次郎が上を見上げ、大声で言いました。
「パオ〜ゴン茶は重い病を治すためには良い薬となるが、元気な人間が飲むと毒となるのだ。ライーゴンは元気な男たちを自分の思いのままに操るために、私のパオ〜ゴン茶を利用したのだ。ある日私は、食料としている草に毒が仕込まれているのを気付かずに食べて、ライーゴンにつかまってしまった。次郎、お前が私の悲しみに気付いてくれたお陰で助かった。ありがとう」
そう言うと、パオ〜ゴンは空中に舞い上がりました。

「あの谷間へ行けば、また会える?」
次郎が尋ねました。
「あの場所は、ライーゴンが作った幻の谷間だ。これから、あちこちに住むドゥクンセイ族の仲間を呼び集め、気を失っているライーゴンを目覚めさせなければならない。ライーゴンが浄化されて、目を覚ましたら、あの谷間は消えてなくなるだろう。ドゥクンセイ族は本来、人間の前に姿は現さないんだ」
「そしたらパオ〜ゴンは、どこに住んでいるの?」
次郎が尋ねました。
「人間が住む地上から一番遠くて、人間の心に一番近い場所に住んでいるんだ」
そう言うとパオ〜ゴンは、いくつもの山の向こうへ飛んでいきました。





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