食うもの
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「食うもの」

 むかしむかし、ある森の中に一人の女の人が住んでいました。
肌は真っ白で、髪は薄紫色をしていました。
目も鼻も口もみんな小さくて、細くスラッとした背の高い姿をしていました。

 ある朝、その女の人は鳥のような美しい声で、森中に響き渡るように歌い出しました。
 その美しい声を聞いて目を覚ました小鳥や動物たちは、女の人が住んでいる小屋の周りに集まってきました。

 女の人は美しい声でしばらく歌いつづけ、辺りを見渡し、もうそろそろいいかなと思った瞬間、肩まで伸びた髪を逆立たせました。
 小さい目や口は金色になり、小さい鼻は先がツンと尖って上に向き、細く長い指の先には尖った爪が伸びはじめました。
 背は、みるみるうちに縮んでゆき、お尻からは長い尾っぽがはえました。
逆立った髪も体も尾っぽも、薄紫色の少し縮れた毛になりました。
 その女の人は、魔物だったのです。

 魔物は羊と猿を合わせたように、「メェ〜キッキー、メェ〜キッキー」と鳴きました。
 右足左足と重心を移動させて跳ねながら、「メェ〜キッキー、メェ〜キッキー」と鳴き、口から薄紫色の煙を出しました。
 その煙は、小屋の周りに集まった小鳥や動物たちを包み込みました。

 煙の外へ出ようと思っても、小鳥たちは逃げ出すことが出来ません。

 魔物は煙の中にいる1羽の小鳥を尖った爪で刺し、自分の小さい口を顔一杯に開き、ポーンと口の中へ入れモグモグ食べはじめました。
 次は煙の中で駆け回っているリスを爪で刺し、クルッと一回転させてからパクッと口の中に放り込みました。

「うーん、今日の獲物は、なかなかウマイね〜。私の歌声が美しければ美しいほど、おいしい獲物がひっかかってくるんだよ」
そう言うと、魔物は自分のお腹をさすりました。


 そのうちに煙の中の小鳥や動物たちは気が狂ったようになり、大きい動物が小さい動物を食べはじめました。
 その様子を見ていた魔物は、
「そうやって食い合うのだ。最後に残った大物を私はクン製にして、毎日毎日、しゃぶって、噛んで、食って、一切れ残らず食いつくすさ。メェ〜キッキー、メェ〜キッキー!」
そう言って甲高い声で鳴きました。
「あ〜それにしても、久々に人間の男の子を食べたいね〜。一人食べれば私の寿命が、また10年は長くなる。次の満月の夜に町へ出向いてみようか・・・母親の言うことを聞かないで、夜遅くまでベッドの上で遊んでる子どもの一人ぐらい、いるだろうよ〜。母親が揺りイスで居眠りをしている間に、私の美しい子守歌で子どもを寝かしつけ、連れ去ってしまえばいいのさ。メェ〜キッキー、メェ〜キッキー」
 魔物は笑いながら、長い尾っぽをパンパンと地面に叩きつけました。


 ある日のこと、ボロボロの服を着た旅の老人が森を通りかかりました。
 その朝も魔物は女の姿で、美しい透き通った声で森中に響き渡るように歌っていました。
『今日はどんな獲物が手に入るかな・・・昨日は久しぶりに人間の男の子を食べたからね〜。今日の歌声は一段とツヤがあって、おいしい獲物がひっかかるだろうよ』
 そう心でつぶやきながら、魔物は両手を広げ、気持ちよさそうに歌いつづけました。
 その歌声を聞いた旅の老人は、パタッと足を止めました。
「毒の声・・・こいつは、昔、ドゥクンセイ族にいたメェ〜キッキーだな。こんなところに身を隠していたか。この歌声には、毒が仕込まれているのだ・・・魔物め!放ってはおけん」
 そう言うと、老人はボロボロの服のポケットから小さな笛を出しました。
 老人が笛に息を吹きかけると、ピューピョロピョロピョロ、ピューピョロピョロピョロという音が鳴りました。

 その音は笛から飛びだすと、羽のある小さな魚になりました。
「クウギョ(食う魚)たちよ、頼んだぞ。あの歌声の毒を食い平らげるのだ!」

 たくさんのクウギョたちは、猛スピードで森中に飛び散り、魔物の歌声にぶつかると、その毒をパクッと大きな口を開けて食べていきました。


 魔物はしばらく歌いつづけましたが、何やらおかしいぞと異変に気付きました。
 自分の声のツヤが失われていき、ノドが渇いてガラガラ声になっていったからです。
「ウン、ウン」
魔物は、セキこみました。
「昨日食べた子どもは、悪い病気でも持っていたのか?久しぶりに有りつけた人間の子だったから、夢中で食べてしまって気付かなかった。チクショーめ!」
片足でドンと地面を蹴り、ノドを押さえていた片方の手をサッと振り払いながら、そう叫びました。
 その瞬間、女の姿からあの魔物の姿に変わりました。
 背はみるみるうちに縮んでゆき、お尻からは長い尾っぽがはえました。
体は薄紫色の縮れた毛をして、頭の髪は逆立たせ、小さい目や口は金色になり、小さい鼻は先が尖って上に向き、手の指には尖った爪が伸びていました。

 魔物は怒り狂い、「メェ〜キッキー!メェ〜キッキー!」と鳴き叫びながら、長く伸びた爪で、周りの草や花を切りちぎっていきました。


 その頃クウギョたちは、毒を食べてドンドン体が大きくなっていき、全てのクウギョが合体して1匹の大クウギョになっていました。
 大クウギョは、猛スピードで魔物の小屋めがけて飛びました。

 怒り狂って飛び跳ねている魔物を見つけると、大クウギョは大きな口を開き、一気に魔物を飲み込みました。


 間もなく大クウギョは、旅の老人の前に戻ってきました。
老人は再び笛をポケットから取り出し、今度は美しい音色で奏ではじめました。
 すると大クウギョの口から、一つ、また一つ、光りの玉がフワフワと浮きながら出てきました。
 口から出てきた数十個の光りの玉は、それぞれ散らばってフワフワ浮きながら森の外へ飛んでいきました。

「あの魔物は、生きている間に数十人もの子どもを食べたんだな。子どもたちの魂は、これでやっと、家族や先祖のいる場所に戻っていけるだろう。元はドゥクンセイ族のメェ〜キッキー、あいつは歌う女神だったのに、魔物にとりつかれたか・・・、道を踏みあやまったな。」
 老人はそう言うと、再び笛を吹きました。

 すると大クウギョがパ〜ッと小さな光りの粒になって、空に舞い上がっていきました。
 老人はボロボロの服のポケットに笛をしまうと、旅を続けるために、その場を去っていきました。




「あとがき」 (「パオ〜ゴン」、「食うもの」) 

 魔物が登場する話を書きたいと思いました。
 奇妙な姿をした魔物が本当にいるのか私は知りませんが、魔物は人の心の中に住み着いているのではないかと思ってしまうことがあります。

 人の心の中は見えませんが、心で感じていることは自ずと外に現れてくるものです。
 たとえ人間の姿をしていても心に魔物が宿っていれば、時々、尾っぽや鋭い爪やキバが見え隠れするかもしれません。
 もちろん、実際に尾っぽがはえたり、爪が尖ってくるのではなく、言葉、立ち居振る舞いや態度、生き方の中に魔物的なものを感じるときがあるかも・・・って思います。

 この「あとがき」を書き終えて、ふと1冊の本を思い出しました。
それは、『本当は「心に怪物を飼う」普通の人たち』 小田晋・著(ぶんか社)です。
 2002年出版された当時に、私は借りて読んだので、詳しく内容は覚えていませんが・・・、職場や学校や身内など、身近にいる人格障害、または人格障害傾向の人々についての本だったと記憶しています。読んで良かった〜って印象があります。
 機会があったら、ご一読してみてください。
著者 小田晋(おだすすむ)
精神科医 医学博士 専攻は社会精神病理学および犯罪病理学

 私は、小田晋さんの著書は、この本1冊しか読んだことがないのですが・・・、ちょっと調べてみたら、沢山の本が出版されていました。



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