手乗りインコのピー太
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手乗りインコのピー太
「手乗りインコのピー太」

1 出会い

 「優太、起きなさい。学校に遅刻するわよ」
「ボク、今日は学校休む」
「えっ、また学校でイヤな事あったの?お母さん仕事に遅刻しちゃうから、もう行くけど・・・いいわ、今日は家にいなさい。学校に連絡しておくから」

 優太は、小学4年生。
 お父さんは今年の春から単身赴任をしているので、普段はお母さんと二人暮らし。
 体が小さい方で幼く見えるせいもあって、クラスの子から、よくからかわれる。

 昨日の下校中も赤ちゃんの話題になったとき、
「優太、お前、まだ母ちゃんのおっぱい飲んでるんだろう。バブ〜」
と一人が言うと、
他の数人も「バブ〜、バブ〜」と笑いながら言った。

 優太は、何も言い返さない。
言い返して、もっとからかわれるのがイヤだから言い返せない、と言った方が本当の気持ち。


 「ボクは赤ちゃんじゃないさ。今小さくたって、これからウ〜ンと大きくなるんだ。そうだよね、ピー太」
 お母さんが仕事へ出かけた後に、優太は布団から出てリビングに来ると、ピー太に話しかけた。

 ピー太は、ヒナから育てた手乗りのセキセイインコ。
 2年前お父さんとデパートのペットショップへ行ったとき、きれいな色のセキセイインコを見ていたら、優太は、どうしても飼いたくなった。

 「それならヒナでなくて、大きくなったインコを飼えばいいだろう。ヒナからだと育てるのが大変だぞ。それに、どんな色のインコかも、今は未だ分からないんだから」
お父さんが言った。
 ヒナを買って帰っても、結局世話をするのは、お母さんになるだろうと思ったから。

 それでも優太は自分で育てるからって言い張って、お父さんを納得させた。
 こんなに真剣で強情な優太は初めてだったから、お父さんも優太の言うとおりにしてみようと思った。

 ヒナを育てるための小さい水槽、ワラ、餌にするアワ玉・・・、お父さんがペットショップの店員さんに聞いて、必要なものを買い揃えた。

 ヒナを小さな箱に入れてから、手提げ袋に入れて、店員さんが優太に渡した。

 ヒナの入った袋を優太は慎重に受け取り、電車でも人にぶつからないように気をつけて大事にヒナを持ち帰った。


 「ヒナの名前は何にする?インコに”ピーちゃん”って名前付ける人、多いみたいだぞ」
お父さんが言った。
 優太は、しばらく考えて
「ピー太にする」
と言った。
「まだ、オスとは決まってないぞ」
「でもピー太にするんだ」
「優太とピー太か〜。仲良しって感じでいいかもな」


 お父さんとお母さんの心配をよそに、優太はピー太の世話を自分で一生懸命した。

 朝はいつもより早く起きて、餌のアワ玉を小さいスプーンでピー太の口へ持っていって食べさせた。
 ピー太が上手く食べられないときは、アワ玉を2、3粒指でつまんで、ピー太の口に入れてあげた。


 そうしてピー太は少しずつ毛も生えてきて、胴体が白で、羽がきれいな水色のインコに育った。

 優太が教えなくても、どこで覚えたのか、ピー太は色々な言葉を話せるようになっていった。

 今ではピー太は、優太の大親友で心の支え。


「ピータ、ダイスキ。ユータ、カナシー。ユータ、トモダチ、ホシー」
ピー太は、優太の心の言葉が分かる。
「そう、ボクは友だちが欲しいんだ。でも平気。ピー太がいるもん。今日は学校休んだからケージを掃除してあげるよ」
優太はピー太をケージから出して、掃除を始めた。

 ピー太は、嬉しそうにリビングを2周飛び、台所の方へ一直線に飛んでいった。

 『ピー太が流しの洗剤で遊んだら大変だ!』
急いで台所へ行った優太の息が、一瞬止まった。
 台所の小さい窓が開けたままだった。
お母さんが閉め忘れたのだろう。

 ピー太の姿が見えない。
 「ピー太!出ておいで、ピー太!」
優太の目に涙があふれた。


 それから1週間が過ぎても、ピー太は帰ってこなかった。
優太は部屋の窓から外をずっと眺めていた。
街路樹が少しずつ色づき始めている。

 「ピータ、ダイスキ。ピータ、サビシー」
ウトウトしている優太の耳に、ピー太の声が聞こえた。
「ピー太!帰ってきてくれたんだね!」
優太は急いで窓を開け、ピー太に向かって手を差し出した。
「そうだよ。ずっと寂しかったよ。カラスに食べられちゃったのかもしれないって思ったら、ボク・・・」
優太が泣きそうな声で言った。すると、
「ヨッシー、ヤサシー。ヨッシー、サビシー」
「ヨッシーって、ピー太を助けて面倒をみてくれていた人なの?」

 そのとき、優太の家のドアホンが鳴った。
「優太、学校のお友だちよ」
お母さんが呼ぶ声がした。
『ボクに友だちなんていないよ・・・』
そう思いながら玄関に行くと、そこにはクラスで1番体が大きい、いじめっ子の芳紀(ヨシキ)が立っていた。

 「ピー太が窓から飛んで行っちゃったから、オレ、急いで追いかけてきたんだ。そしたら、この家の窓に入っていったのが見えて・・・ピー太は優太のインコだったんだ」
 優太が、うなづいたとき、ピー太が飛んできて肩に止まった。
「ピータ、ダイスキ。ユータ、カナシー。ユータ、トモダチ、ホシー」
そう言うと、ピー太は芳紀の肩に飛んだ。
「ヨッシー、ヤサシー。ヨッシー、サビシー」と言った。 


 「ピー太が、うちの窓から突然入ってきて、オレの肩に乗ったときはビックリした。前にインコを飼ったことあるから、餌のやり方とか知ってたし・・・ピー太も他に飛んでいかなかったから・・・飼い主は心配しているだろうって思ったけど、オレもピー太と一緒にいたくて、飼い主を探さなかったんだ。ごめん・・・」
 クラス1番のいじめっ子の芳紀が、申し訳なさそうに頭をさげている。
「ピー太を助けてくれて、ありがとう」
「優太1週間ずっと学校休んでただろ、ピー太がいなかったからか?」
優太が黙ってコクンとうなずいた。

「またピー太に会いに来ていいか?」
そう芳紀に言われて、一瞬優太はビックリした。
「オレの弟、病気で入院ばかりしてて、母ちゃんは、いつも弟に付きっきりなんだ。一人で留守番してるとき、ピー太が一緒にいてくれて、オレうれしかった」
体が大きくて、いじめっ子の芳紀がしんみりとした顔で話した。
「もちろんだよ。芳紀君はピー太の命の恩人だもん」
その言葉を聞いた芳紀の顔が、パッと明るくなった。
「オレ、今まで優太のことからかってばっかりで・・・」
「うん・・・」
「オレのこと、ヨッシーって呼んで!ピー太も、そう呼ぶんだ」
「ヨッシー!ヨッシー〜」
優太の肩に止まっているピー太が、歌うように言った。
二人は、お互いを見つめながら笑った。
「ピータ、ウレシー、ピータ、ウレシー。」
そう言って、ピー太は二人の上を飛び回った。



2 友情

 あれから1年以上が過ぎ、優太と芳紀は、小学5年生の終わりを迎えていた。

 「ピー太、来週ボクお父さんに会いに行くんだよ。青森まで行くんだ。新幹線に乗るんだよ。これ見て・・・この前学校で発表会があったときの映像。お父さんにも見せてあげるんだ」
「ユータ、ウレシー」
「そりゃ〜嬉しいさ。あっ、ゴメン・・・ピー太は連れていけないんだ。でも大丈夫。ヨッシーに頼んであるから」


 1年以上前、ピー太が台所の窓から飛び出して芳紀の家に入ってしまった出来事から、優太と芳紀は大の仲良しになった。

 去年の夏休みに2週間、優太とお母さんが、単身赴任をしているお父さんの所へ行ったときも、ピー太を芳紀の家で預かってもらった。

 優太がリビングへ行くと、お母さんが電話中だった。
「そう・・・仕方ないわよ。また機会はあると思うから・・・じゃあ、体気をつけてね」
 お母さんは電話を切ると、少し寂しげな顔で優太の方を向いた。
「優太、お父さんね、春休み中は仕事忙しいんだって。せっかく新幹線のチケット買ったけど、行けなくなっちゃったのよ」
「えっ!ボク、お父さんに会うの楽しみにしてたんだよ。新幹線に乗るのだって。もうすぐ準備完了だったのに・・・」
 お母さんは、ちょっと首をかしげながら笑顔で優太を見つめた。
仕方ないねって言う代わり、お母さんは、ちょっと困ったような、ちょっとあきらめたような、でも次があるよって言いそうな顔をした。


 お父さんは2年前から単身赴任で青森にいる。
 お正月は帰ってきたけど、春休みは優太が青森へ行くことになっていた。


「・・と言うわけで、ピー太を預かってもらわなくて、よくなっちゃったんだ」
優太は、芳紀に青森行き中止のことを電話で話した。
「え〜、つまんないの〜。ピー太と1週間いられるなんてサイコーって思ってたんだよな〜」
「なら今日から3日間、ヨッシーの家で預かったもらうっていうのは、どう?」
「いいの?オレはピー太のことは、いつでも大歓迎だ」
「その代わり、ボクも毎日ピー太に会いにくるよ」
「もち、オーケー。優太のことも大歓迎!」


「・・と言うわけで、ピー太、今日から3日間ヨッシーの家へ行くんだよ。ちょっぴり寂しいけど・・・、ボクはお父さんとも会えないし・・・。でもヨッシーは、弟がまた入院しちゃってるから、もっと寂しいと思うんだ」
「ピータ、サビシー。ピータ、ウレシー」
そう言うと、ピー太は部屋を飛び回った。
「そうだな・・・、ボクと会えないのは寂しいけど、ヨッシーと会えるのは嬉しいよな」


 優太はピー太を小さい携帯用のケージに入れると、芳紀の家に向かった。
 ピー太が寒くないように、ケージの周りは大きいフリースのストールをグルグル巻きにしておいた。

 公園では、幼稚園児たちがサッカーボールを蹴って遊んでいた。
この公園を通り抜けた方が、芳紀の家は近い。
 優太が公園を出ようとした直前、誰かが蹴ったボールが、ピー太の入っているケージに当たった。
 その瞬間、ケージが優太の手から離れ、ストールごと地面に落ち、落ちたはずみでケージの扉が開き、ピー太が空高く飛び上がった。
 ボールが当たった衝撃でピー太は混乱してしまっているのか、そのまま飛び去ってしまった。

 優太は大声で、「ピー太!戻っておいで!」
と飛んでいった方に向かって叫んだが、ピー太はまっすぐ遠くへ飛んでいってしまった。


 「優太、きっと大丈夫だよ。ピー太はまた誰かの家に、ちゃっかり入り込んで一休みしているさ。オレんちに来たときだって、自分で勝手に窓から入ってきたんだ」
 芳紀は、自分もピー太のことが心配でたまらない気持ちを抑えて、優太を励ました。
「そうだよね。もしかしたらボクんちにもう帰ってるかも。ボク帰るね」


 次の日もピー太は帰ってこなかった。
芳紀の家にも行っていない。
優太は家の窓から、じっと遠くを眺めていた。
 春休みだというのに、外はまだまだ寒く、道を歩いている人たちは毛糸の帽子をかぶったり、マフラーを巻いている人が多かった。

そのとき電話が鳴った。
芳紀からだった。
「優太、オレ今、病院の待合室でテレビ見ながら電話してるんだけど、優太もテレビ付けて」
優太は、芳紀の言ったチャンネルをつけてみた。
「トラックの運転手さんが話してる手乗りインコ、自分のこと”ピータ”って言うんだって、ほら、今、ピータが映った」
芳紀が少し興奮気味で話した。
優太は、じっとテレビを見つめた。
あの運転手さんと一緒にいるのは、ピー太だ!!

 リポーターの質問に、運転手さんが答えている。
「静岡から運転して、ちょうど東京の営業所に荷物を降ろしているとき、インコが助手席の窓から入ってきたんですよ。また、どっかに飛んでいっちゃうかと思ったんだけど、青森営業所まで一緒に来ちゃいましたね。よくなついて可愛いですよ。でも飼い主の所へ帰りたいんだと思いますよ。『ピータ、サビシー』って鳴くんです。青森営業所で預かってるんで、飼い主さん連絡待ってますよ」

 「優太、やっぱり、あのインコはピー太だよな。テレビに連絡先が映ってるだろう。あそこに電話すればいいんだ」
「ヨッシー、ありがとう」
 芳紀からの電話を切ると、優太は早速テレビに映っていた連絡先に電話をかけた。


 ピー太を預かってくれている青森営業所の人に電話をかけてから2時間後、優太と芳紀は青森行きの新幹線に乗っていた。
「ヨッシー、ボクと一緒に来ちゃって本当に大丈夫だったの?ボクは、お母さんの携帯にメールしておいた。仕事が終わったら読んでくれると思うよ」
「大丈夫だって。オレ携帯電話持ってないから、手紙書いてきたんだ。どうせ母ちゃんは入院中の弟に付きっきりだし、父ちゃんは、いつも帰りが遅いんだ。優太こそ勝手に新幹線のチケット使っちゃって、よかったのか?」
「平気平気!ボク、お父さんにも会ってくるよ。さっき携帯にメールしておいた。せっかく青森まで行くんだもん・・・もしかして、ピー太は、わざと青森まで行っちゃったのかな・・・まさか、いくらピー太でもそこまでは考えないよね」
「いや、ピー太ならやりそうだよ。人の心が分かるんだもん」


 二人とも、内心不安で一杯だった。
 春休みが明けると最高学年の6年生になるといっても、子どもだけで青森へ行くなんて初めてのこと。
 それも親の許可を得ないまま、勝手に出てきたのだから。
 でもピー太に早く会いたくて、じっとしていられなくて、後のことは考えずに新幹線に乗ってしまった。

 東京から青森まで、二人は、しゃべり通しだった。
2日前の修了式でもらった通信簿のこと、4月から6年生になること・・・
「またヨッシーと同じクラスになりたいなあ」
「オレも。でも、もし違うクラスになっても親友だよな」
「もちろん!担任の先生は誰かな〜」
 二人とも、しゃべっていないと不安に襲われそうで怖かったし、同時に二人だけで旅をしていることがワクワクして、まったく落ち着くことができなかった。


 青森駅の改札を出ると、
「優太!」
お父さんが、二人の所へ走ってきた。
「お父さん!」
優太が、お父さんに抱きついた。
 3人は、お父さんが迎えに来てくれた車に乗って、ピー太を預かってくれている青森営業所へ向かった。

 優太は、お父さんに叱られるんではないかと、内心ヒヤヒヤしていた。

 お父さんは運転しながら、連絡をもらって嬉しかったこと、優太たちが、ちゃんと青森まで来られるか心配だったこと、上司に事情を話して仕事の途中で抜け出してきたこと・・・を話した。

 青森営業所に着くと、テレビに映っていたトラックの運転手さんが、出てきた。
「あのボク、ピー太の飼い主の優太です。こっちは友達の芳紀。それから、お父さんです」
「さあ中に入って。青森は、まだまだ寒いだろう。今、ピー太連れてくるから」

 ピー太は、大きいプラスチック製の水槽に入れられていた。
「ピータ、ウレシー。ユータ、ウレシー。ヨッシー、ウレシ−」
ピー太が、水槽の中でピョンピョン跳ねながら言った。
「キミは、正真正銘の飼い主だ」
そう笑いながら言って、トラックの運転手さんは水槽を優太に渡した。

 「ピー太を助けてくれて、ありがとうございました」
優太と芳紀が頭を下げた。
「助けてもらったのはオレの方かもしれんぞ。ピー太のお陰で変なことに気をとられないで、安全運転できたからな」
「何かあったんですか?」
お父さんが聞いた。
「オレんち、先月生まれたばかりの赤ん坊がいてね。初めての子なんだ。静岡を出発する前、赤ん坊が高熱を出しちゃって、そのことが心配でたまらなかったんだ。ピー太がオレのトラックに飛び込んできて、『ピータ、ウレシー、ピータ、アイターイ、サビシー』って言ってるのを聞いたら、一瞬、涙がこぼれそうになっちゃったよ。でもピー太が色々しゃべれるんで、なんか笑いが出てきちゃって、それからは、気分が楽になって青森まで無事運転できたんだ。さっき家から電話があって、赤ん坊の熱が下がったって聞いたし・・・初めての子だから心配ばかりしちゃって・・」
運転手さんが、照れくさそうに頭をかいた。

 優太と芳紀は、もう一度お礼を言い運転手さんと別れた。

 優太たちはピー太が寒くないように、急いでお父さんの車に乗った。

 「ピー太が無事で本当によかったな。優太たち、お腹すいたろう?青森の美味しいもの、食べさせてやるぞ」
お父さんが言った。
「ボク、お腹ペコペコだよ。ヨッシーもペコペコでしょ?」
「うん・・・」
芳紀は、少し元気のない声で答えた。
「どうした?お腹すきすぎた?」
優太が聞いた。
「ううん・・・ちょっと・・、母ちゃん、心配してないかなって思って・・・」
「そうだね、ボクの携帯から電話するといいよ」
「僕も芳紀くんのお母さんと話しがしたいから、電話かわってくれよ」
お父さんが言った。


 「母ちゃん、ちょっと怒ってたけど、優太のお父さんとも話せたから安心だって」
「それなら、美味しいものを食べに出発!」
優太が言うと、
「オイシー、オイシ−」
とピー太も水槽の中で、ご機嫌に飛び跳ねた。


 温かい食事を済ませ、3人は再び車に乗り、お父さんの仕事場へ向かった。
 「ピー太、狭いだろ。ちょっと車の中で羽を伸ばすといいよ」
優太は、そう言ってピー太を水槽から出した。
 ピー太は嬉しそうに、優太と芳紀の肩を行ったり来たり飛び跳ねた。

 「せっかく青森まで来てくれたのに、お父さん仕事だから、どこにも連れてってやれなくてごめんな。仕事が終わるまで、会社の会議室で待ってられるよう、上司に頼んでおいたから、そこでピー太と遊んでてくれ。明日から東京に出張だから一緒に帰ろう」
「えっ?お父さん、明日から東京なの?家に帰ってくるの?」
「そうなんだ。東京の本社で用事ができてな、だから優太とお母さんの青森行きは中止にしてもらったんだ。二人をビックリさせようと思って黙ってたんだよ」
 信号が青に変わり、お父さんはアクセルを踏んだ。
その瞬間、ピー太は優太の肩から膝の上に滑り落ちた。
「ピーピー、ピータ、ハズカシー、ピ〜、ピ〜」
そうピー太は鳴いて、優太の上着を登り始めた。
「さすがのピー太も、優太のお父さんのトリックまでは、分からなかったみたいだな」
「そうだね。でもピー太、恥ずかしがることなんてないよ。ピー太はスゴイよ。トラックの運転手さんを元気にしてあげたり、ボクとヨッシーに青森まで来る勇気をくれたんだもん」
「ピーヒョロロロ〜、ピータ、ウレシー」
 優太の肩にたどり着いたピー太は、ピョンピョン跳ねながら鳴いた。
「ピー太、ありがとうな!オレも、まさか優太と二人だけで青森まで来ちゃうなんて思ってもみなかったよ。最高の思い出だ!」
「ピーピョロロロ〜、ピータ、ウレシー」
ピー太は優太と芳紀の肩を行ったり来たり、ピョンピョン跳ねて羽ばたいた。



3 家族

「ピー太、じゃあ行ってくるね」
「ユータ、カッコイー、ハッピーバースデー」
「違う、誕生日じゃないよ。今日は卒業式なんだ。小学校最後の日なんだよ」
「ユータ、オメデトー」
「ありがとう」
「ヨッシー、オメデトー」
「そうだね、ヨッシーにも伝えておくよ」

「お母さん、お父さん、行ってきま〜す」
「いってらっしゃい、後で私たちも行くからね」


「厚志(あつし)、カメラ持った?スリッパも持っていってね」
「準備完了だ。仁美(ひとみ)、そのスーツ似合うな」
「これ、優太が幼稚園を卒園するときも着てたのよ」
「だから、あれから6年たっても体型キープしてるし、若々しくて似合うなってこと」
「あ・り・が・とう〜。厚志、青森で単身赴任してる間に、口上手になったんじゃない?女の子を喜ばせる方法、磨いてきたんでしょう」
「青森の3年間で一番学んだことは、それだ〜。ハハハ・・」


 「優太、そのスーツ、カッコイイじゃん。ネクタイがいいよ。オレなんて、母ちゃん忙しくて・・・」
「ヨッシー、そのセーター似合ってるよ。ボク、このネクタイ苦しいよ。そうだ、家出るときピー太がね、『ヨッシー、オメデトー』って言ってたよ。ボクたちの卒業を祝ってくれてるんだ」
「そっかー、卒業式が終わったらピー太に会いに行っていいか?」
「もっちオーケー。ピー太と一緒に記念写真撮ろうよ。この格好で」
「オレ、こんなんでいいのか?」
「そのセーター似合ってるって。卒業証書も持ってきてね」


 ピンポーン。
「あっヨッシー、大変なんだ!ピー太が、また居なくなっちゃったんだよ。お母さんが朝慌ててたから、台所の小さい窓、開けっ放しにしちゃったんだ」

 「優太〜、ピー太の居場所分かったわよ〜」
リビングから、お母さんの声が聞こえた。
「ヨッシーも来て!」
「うん」
 芳紀は慌てて靴を脱ぎ、優太とリビングへ行った。

「お母さん、ピー太は?」
「前、優太たちが青森へ行ったでしょう。あのトラックの運転手さんから今、電話があったの。ピー太、いつの間にか、あの人の助手席にある上着に隠れてたんだって!運転手さん、気付かないで静岡営業所まで来ちゃったって」
「あの運転手さん、静岡の人だったもんな」
お父さんが言った。
「なんでピー太、静岡なんかに行っちゃったんだ?」
芳紀が言った。
「ピー太のことだもん、きっと何か訳があるんだよ」
優太が答えた。

「お父さん明日は会社だし、今日なら車で静岡まで行けるから、これからピー太を迎えに行くって、トラックの運転手さんには伝えておいたから。優太も早く支度して」
「オレも行きたいな・・・」
芳紀がボソッと言った。
「なら家に電話して、オーケーがでたら連れていってやるぞ」
お父さんが言った。


 「そしたら出発進行!」
 優太と芳紀、お父さんとお母さんの4人がシートベルトを締め終ると、お父さんは、そう言ってアクセルを踏んだ。


 静岡営業所は沼津にあり、4人が到着したときは午後4時近かった。
「イヤ〜、またピー太と会えるとは思ってもみませんでしたよ〜。1年ぶりですね」
 トラックの運転手さんが、笑いながら出迎えた。

「民子(タミコ)さ〜ん、ピー太連れてきて〜。飼い主さんが来たんだ」
運転手さんが、奥の方にいる年配の女性に声をかけた。
「ピー太、お別れだね〜」
民子さんという人は、自分の手に乗っているピー太に話しかけながら、やって来た。
「可愛いインコだね〜。よくしゃべるし・・・」
そう言って民子さんが、ケージを持っているお父さんにピー太を渡そうと思ったとき、ハッという顔をした。
お父さんが、
「あっ、・・・どうも・・・」
と言った。
「あつしさん・・・よね」
民子さんが言った。
「ハイ、ご無沙汰してます」
お父さんが言った。

「厚志、こちらは・・もしかして、お母様?」
お母さんが、小さい声でお父さんに尋ねた。
「ああ・・・」
と言ってから、お父さんは、民子さんの方に向き直って、
「妻の仁美と、息子の優太です。この子は優太の友達の芳紀くんです」
一人一人を紹介していった。
「まあ、こんなに大きくなったの・・・」
民子さんが優しく微笑みながら、優太を見た。
「優太、お前のおばあちゃんだ。挨拶しなさい」
お父さんに言われ、優太は戸惑いながらも
「はじめまして」
と言った。
「いくつなの?」
と民子さんが聞いたので、
「12歳です。今日卒業式だったんです」
と優太は言った。
「そう。それは、おめでとう」
と民子さんは優太に言ってから、お父さんの方を向いて、
「厚志さん、みなさんで、うちに寄っていってください。お父さんも喜びますよ。私のパート時間は終ってるから、これから帰るところなんです」
と言った。

 お父さんが返事をせずに黙っていると、お母さんが
「厚志、ちょっと寄っていきましょうよ。せっかく言ってくださってるんだから・・・。私もお義父さまに会って、ちゃんとご挨拶したいから」
と言った。


 優太のお父さんは高校を卒業して実家を出てから、一度も帰ったことがなかった。
 お父さんが高校1年生のときに母親が亡くなって、高校3年生のとき、父親が民子さんと再婚をした。
 そのことが、どうしても受け入れられなかったから、高校を卒業した日、実家を出た。
 その後、お父さんは妹を通して実家のことを聞くぐらいだった。


 お父さんの実家に着いた。
 門の前でお父さんは立ち止まって、しばらく家を眺めていた。

 「あの頃とちっとも変わってないでしょう。さ、上がって。ピー太を風邪ひかしちゃいけないから」
民子さんが言った。


 4人が和室にあるテーブルを囲んで座って待っていると、年配の男性が入ってきた。
「いらっしゃい」
 その人は優しそうな表情をして、みんなに挨拶した。
 一瞬、部屋がシーンとしてしまったので、優太のお母さんが慌てて立ち上がり、
「はじめまして。厚志の妻で、仁美と申します。長い間、ご無沙汰をしていまして申し訳ございません。こっちが一人息子の優太です」
と言った。
優太も、その場に立ち、
「はじめまして、優太です。こっちは親友の芳紀です」
と言った。
「ピータ、ピータ!」
ピー太がパタパタ羽ばたきながら叫んだので、みんなが笑った。

「お、これがピー太か」
優太のおじいちゃんが言った。
 そのとき、お父さんが立ち上がり
「ご無沙汰してます。父さん」
と言った。
「おー、元気そうだな。よく来てくれた」
おじいちゃんが言って、ウンとうなずいた。


 「はい、みなさん、どうぞ召し上がれ。新鮮なお魚の刺身ですよ」
そう言いながら、民子さんが入ってきた。
「わ〜うまそ〜」
芳紀が思わず声に出してから、恥ずかしくなって黙ってしまった。
「ウマソー、ウマソー」
ピー太もピョンピョン跳ねながら言っている。

 「沼津は魚がウマイんだ。今日は子どもたちの卒業式だったからな。新鮮な刺身食べられるなんて、よかったな」
さっきまで顔がこわばっていたお父さんが、いつもの調子で言ったので、優太も
「ボク、お刺身大好き!」
と言った。
「そうか、沢山食べろよ」
おじいちゃんが、晴れ晴れとした顔で言った。

「ピータ、スキー、ピータ、スキー」
ピー太は、水飲み場に止まりながら言った。
「ピー太は、お刺身食べられないだろう」
優太が笑いながら言うと、みんなも笑った。


 「こんなに大勢で食事するなんて、久しぶりですね」
民子さんが、おじいちゃんに言った。
「そうだな。・・・優太、このマグロ食べるか?最後の一切れだぞ」
おじいちゃんが聞くと、
「うん、ありがとう、おじいちゃん。ボク、マグロ好きなんだ」
優太は、口に頬張りながら答えた。
 優太が『おじいちゃん』と言ったのを聞いて、お父さんとお母さんは顔を見合わせて微笑んだ。


 「ごちそうさまでした」
玄関で、優太たちが挨拶をした。
「優太、春休み中にゆっくり遊びにおいで。芳紀くんと二人で来られるだろう。もう中学生になるんだもんな」
おじいちゃんが言った。
「もちろんだよ!だってボクたち、去年は二人で青森まで行ったもんね」
優太が、芳紀の方を見ながら言った。
「あのときは、優太がお父さんに会うためだったけど、今日は、おじいちゃんに会うために、ピー太、家を飛び出したんだな」
芳紀が言った。
「そうだね。それと、お父さんが、おじいちゃんとおばあちゃんに会うためにだよね」
優太が、お父さんの方を見ながら言った。
 お父さんは優太の肩をさすりながら、
「そうだな。ピー太が沼津にいるって電話もらったときから、お父さんは、こうなる予感は少ししてたんだ。ピー太が訳もなく家出するなんて、ありえないもんな」
と言った。
「ピータ、スキー、ピータ、スキー」
ピー太は、ピョンピョン跳ねながら羽ばたいた。
「ピー太、好きって、お刺身のことじゃなかったのかもね」
優太が言った。

 「今日は優太に会えたから、おじいちゃん、長生きできそうな気がしてきたぞ」
おじいちゃんは、笑いながら言った。
「父さん、僕も近々改めて来ます。母さんの墓参りしたいって、ずっと思ってたから」
お父さんはそう言ってから、チラッと民子さんの方を見た。
「おう、母さんも喜ぶだろうから・・・待ってるぞ」
おじいちゃんが言った。


 帰りの車で、優太と芳紀は、ぐっすり眠ってしまった。
 卒業式がとっくの昔のことに思えるぐらい、今日は色々あった。
ピー太も止まり木に止まって、静かに目を閉じていた。




「あとがき」

 私が子どもの頃、手乗りインコを飼っていました。
 結婚して、わが子たちが大きくなった頃、子どもたちが飼いたがったので、やはりヒナのインコを買って、手乗りに育てました。

 飼っていたインコや子ども時代の私自身や、インコを育てているわが子のことを思い出しながら、この物語を書きました。



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